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アランの母は、裕福な家に生まれ育って教養もあります。しかし父は、貧しい職人の家に育って教養はありません。母は父の無知と卑しさを嫌いますが、不信心を非難することで気持ちを晴らしています。父は困惑するしかなくて、仕事に専念します。 母はアランの成長に夢を託し、信仰心と高潔さを尊ぶように育てます。そしてアランが偶然に興味を持った馬に、上品な趣味であるとして褒めそやします。庶民の町中で良家の御曹司のように育ってしまったアランは、馬は唯一の友であり最愛の恋人であったようです。
矛盾を内に秘めたアランでも、子どものうちは問題ありませんでした。しかし心が子どものまま身体に大人が芽生えた時に、嫌悪していたものを自分の中に見いだしてしまいました。大人の専売特許であり両親も例外でなかった許しがたい欺瞞と裏切りを、気づいた時には自分も犯していたのです。ガールフレンドに誘惑されたとはいえ、性の衝動が抑えきれず、心ならずも誤魔化して裏切りました。しかし現実を直視できない子どもの心は、狂気の世界へ逃げ込むしかなかったのです。
しかも裏切った馬から復讐され、責められる恐怖に耐えられずアイスピックで馬の目を刺し潰す奇行に及んだのです。子どもの世界はタテマエと未知の不安です。タテマエの裏のホンネに気づき、表裏を使い分けるのが大人の世界です。善し悪しは別にして、清濁あわせ飲むということです。
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