アメリカ人とギリシャ人

 

 「くわいだん」などで知られた有名な文学者小泉八雲の本名は、ご存じのようにラフカディオ・ハーンです。アイルランド人ですが、ギリシャに生まれてギリシャに育ち、生粋のギリシャ人と変わらぬ心をもっていたようです。新天地を求めてアメリカへ渡り新聞記者として地位を固めましたが「ギリシャ人魂」が邪魔をしたのか、そこを安住の地にはできなかったようです。南太平洋の島々に腰ミノだけで暮らす女性たちに胸当てを着ける習慣を当然のものとして押しつけたような「アメリカ人の善意」は、互いに価値を認め合い共に自由を尊ぶギリシャ人気質には馴染み難いのでしょう。すべてを捨てて日本に渡り、小泉節子と結婚して帰化したことからも窺い知ることができます。

 ミュージカル「日曜はダメよ!(イリヤ・ダーリン)」では、アメリカ人の典型といえるような青年ホーマーがギリシャの港町ピレウスに舞い込んで来て、陽気で奔放な娘イルヤと出会います。ギリシャがアメリカに馴染めなかった時とは逆で、アメリカがギリシャでしかも魅惑的な女性と出会うのですから、感化されてミイラ取りがミイラになるであろうことは想像がつきます。清教徒的な教養主義が世界のどこでも通用すると思いこんでいる「アメリカ人の善意」が、自由気儘に暮らす「ギリシャ人の人間賛歌」に圧倒されてしまいます。

 奔放なイリヤを完璧な女性に変えようと、強引に知性と道徳心を植えつけようとしたホーマーも、ついにはイりヤと一夜をともにしたかったと漏らすまでに変わります。人々は「理想郷」を求めます。ハーンはアメリカで見つけられなかった「理想郷」を、日本の山陰松江で節子との出会いで獲ました。ホーマーは、哲学的思惟を求めてギリシャを訪ねたのでは無いことに気づかされ、改めて「理想郷」を訪ねることになるでしょう。

 

 

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