ミュージカル「九郎衛門」と東西文化

 

「九郎衛門」は江戸時代に中国から日本に贈られてきたゾウの名前です。今までに見たことも聞いたこともない、大きな身体と長い鼻に町の人たちはビックリ仰天。しかもそれより驚いたことには、何でもかんでもあっという間に平らげてしまう食欲です。あまりにも見事な食べっぷりに、殿様からよく食らう衛門「九郎衛門」と名付けられたのです。

 大きな身体に強い力、いくらでも平らげる食欲が人気の的でしたが、いくさとなるとそれが災いとなって「殺せ!」と命令が下ります。殿様の命には逆らえませんが、人間の都合でゾウを殺すわけにはいきません。勇気ある少年と村人に守られ、その恩返しに村人と少年を守り命をかける。人とゾウの心温まる交流で「いのちの尊さ」と「平和の大切さ」をほのぼのと教えてくれます。

 ミュージカルのメッカはニューヨーク・ブロードウェイからロンドン・ウエストエンドに移ったようですが、ロンドン・ウエストエンドのコベント・ガーデン界隈のにぎわいは行ってみてこの目で見ても信じられないほどのものです。上演している作品によってそれぞれの劇場の観客層に違いが見られるものの、劇場に出入りする人たちも当日券を手に入れようと並ぶ人たちも全体としては男も女も、老いも若きもといった様相です。

 変わらないことに価値をおくイギリスと目まぐるしく変化し続けてきた日本という国民性の一つの顕れでしょうが、観劇人口の層の厚さに驚かされます。浅草が賑わった頃の日本、元禄文化華やかりし頃の日本はイギリスに負けない観劇人口だったろうと思います。「縁日」のような「サーカス」のような老若男女がこぞって楽しめる要素が作品にあれば観劇人口の層の厚みは増します。

 ミュージカルがブームで終わらぬよう次々とオリジナル・ミュージカルえを生み出してきて、ここでさらに誰もが楽しめるよう嗜好を凝らし、観客席には「花道」や「枡席」まで出現するという画期的なアイデアで「ミュージカル・九郎衛門」は上演されます。「ミュージカル・九郎衛門」はロンドン・ウエストエンド」とならぶ、元禄文化の華やかりし頃の賑わいとかつての浅草六区の賑わいを復活させるきっかけとなる作品であるように思います。

 劇場内に足を一歩踏み入れたら、そこは江戸時代にタイムスリップしたかのような錯覚にとらわれそうになる。そんな体験は想像しただけでわくわくします。

 

 

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