アーニーパイル物語

 

 

 

  第一幕 一場 劇場南隣連合軍婦人将校宿舎前

 

 小旅行の出で立ちでスーツケースを下げた松川春子が下手から歩いてくる。上手からはGHQのジープが舞台中央に停車し、運転していた婦人将官ベティ・アンダーソン准将が車から降り春子に歩み寄る。ジープの助手席には運転手らしき軍曹と後部座席にはM1カービン銃を肩から背負った副官で日系二世のロバート・ウチムラ大尉が座っている。

 

[ベティ] ご免なさいね、松川春子さんですよね。わはり春子だったわ、会えて良かった。わたしよ、キャシーの姉のベティ・アンダー  ソンよ。私が陸軍の衛戍病院に勤務していたことは、知っていたわよね。衛生隊に中尉で志願してマッカーサー将軍の部隊と一緒に南方戦線を転戦して、フィリピンを撤退した時は休暇を取って国に帰っていたけれど、沖縄上陸の時は大佐になってたわ。ロバート大尉、ちょっとこちらへ来て下さるかしら。

(ロバート大尉はM1カービンを左肩に背負ったままジープから飛び降りて駆け寄る。そして、春子に握手を求める。)

 まぁッロバート、あなたに春子を紹介したくて呼んだのだけとちょっとせっかち過ぎないかしら。あなたを若くてハンサムな男性であることは認めるけれど、その前に合衆国陸軍の軍人なのよ。多くの市民が注目していることを忘れないで下さいね。軍人が銃の背負い方を間違えては、格好が着かないでしょう。

(ベティは銃を背負ったままの敬礼と握手の仕方を実演して見せる。)

 次いでに自慢させてもらうと、私が腰に吊っているのは只ならぬコルト・トルーパーなの。ロバートのは、なんてことのない官給品のコルト・アーミーなの。春子は私が父の射撃クラブに入っていたのは知っていたわよね。軍の射撃大会で優勝した時にホワイトハウスに招かれ、ルーズベルト大統領とトルーパーが信頼できるということで銃の好みが一致したの。コルト社の特製のトルーパーが大統領に寄贈されてあり、私が南方戦線へ従軍すると言ったら、湿気を気にしなくてよいようにとそれに銀メッキしてプレゼントして下さったの。機会ある毎に自慢していたので有名になり、あのパットン将軍が聞きつけて交換したいと言うの。銀メッキのヘルメットを被り、ワイルド・ウエスト・ショウのビル・ヒコックみたいに二挺拳銃なの。コルト・ピースメーカーは西部開拓時代のしろものだから、骨董趣味でもないかぎり持つ気になれないし、うっかり交換などしてしまったら天国の大統領に申し訳が立ないわよ。だから、お断りしたの。おかげで私のトルーパーは有名になり、横車を押す時に役立ってくれているのよ。

[ロバート]パットン将軍の二挺拳銃よりもベティ准将のトルーパーは有名なくらいなんです。私のコルト・アーミーはオートマチックなので短時間に大量の弾を発射できるのですが、肝心な時に故障すると言われているのです。その点トルーパーはリボルバーなので、よほど射撃に熟達しないと短時間に大量発射はできないのです。軍は立て割りの指揮系統ですから、他系統から口を挟むことは出来ませんが、このトルーパーは神通力を持っているのです。鬼に金棒って言うのでしょうか。

    (笑うロバートをにらみつけ、そしてにっこり笑い)

[ベティ]ロバート、春子は妹キャシーの親友なの。春子のご両親の代からアメリカで、春子はアメリカ生まれのアメリカ育ちだから、あなたたち日系二世と同じぐらいアメリカ人なの。春子、ロバートは私の副官だけど、優秀そうな軍人に見えるでしょう。でもね、軍人としてはまるでダメなの。さっきの銃の扱いと敬礼のしかたで想像はつくと思うけれど、優秀そうな軍人なのは外見だけで中味は新兵以下なの。でも保健学の専門家としては抜群の能力を発揮するので、フィリピンと沖縄では公衆衛生の知識を軍政に生かして大勢の住民の生命を救ったの。私はもともと外科の看護婦で負傷者の世話は得意なんだけれど保健行政なんかまるで分からないから、ロバートのアドバイスがなかったら日本人の健康を守ることもできないのよ。だからロバートは敬礼が下手でもいいの。GHQの衛生局は軍人らしくないロバートの発想で血の通った施策が出来ていると思うの。マッカーサー将軍は日本での業績をアメリカへ持ち帰って、大統領になろうなんて野心を持たないから日本人の為になることが出来るのよ。連合軍の進駐をビジネス・チャンスと考えるアメリカ人は少なくないので、うっかりするとビジネスの手伝いをさせられてしまうの。ロバートの純粋な学者の目がなかったらこの私も誰のために仕事をしているか分からなくなってしまう心配が常にあるの。

 (思い出したように、改めて春子をまじまじと全身を眺め)

 ところで春子は旅行中なの?スーツケースを持って、旅行中のような身支度ではないの。

[春子]はい、自宅から銀座までの日帰り旅行中だったの。こんな時節柄ですから贅沢は許されないのですが、私の家族は午後のお茶の時間に美味しい和菓子を頂くのが楽しみなのです。銀座の和菓子屋さんはお店を閉じていますが、わずかな量ながら作っているのです。予めお願いをしておいてお米か小豆を持参すると技術料だけで譲って下さるのです。

[ベティ]平和な時代だったら、なんでもないことが大変なのね。ところでアズキってなんなの?

[春子]アズキは赤くて小さな豆ですけれど、饅頭や大福の餡子の材料    なの。私の家のパーティで食べたのを覚えているかしら・・。

 お米を持っているのを警察官に知られてしまったら、罪になり没収されてしまうの。それで旅行へ行くような格好をして、お米を持っていないように見せているの。重いけれど重そうに持たないよう、これでも努力しているのよ。      

[ベティ]そうそう私が自分の時間が持てるようになったら、真っ先に貴女のお宅を訪ねようと考えていたのよ。妹のキャシーに頼まれ    て、クリスチャン・サイエンスモニター紙とサタデー・イブニング・ポスト紙の東京特派員を引き受けて貰おうとお願いに行くつもりでいたの。

 極東の出来事は中々届きにくいし、どこが伝えたかで事実が微妙に歪められて伝わってしまっているの。この2紙に春子が記事を書けば、これほど正確な情報を伝える新聞はないから、心あるアメリカ市民からは大歓迎されると思うわ。お給料はあまり高給とは言えないようだけど、春子しかこの仕事の適任者はいないのだから神の御声だと思ってね。

(といって、身体を揺すって大笑いをする。)

[春子]キャシーが私のことを忘れずにいてくれたのはうれしいわ。       しかもやり甲斐のあるお仕事を紹介して下さり、感謝感激よ。ところでキャシーは今どうしているのかしら。

[ベティ]あの軍隊嫌いのキャシーが、今は陸軍の語学学校で日本語の教官をしているのよ。日本語が堪能なアメリカ人は殆どいないから、猛烈に勧誘されたことは確かなんだけど、以外にもあっさりと自分で志願して軍属になったの。

 彼女の生徒だった語学兵は、この東京だけでも10人は下らないわ。沖縄も含めた日本各地には20人以上いると思うの。語学兵は日系二世なんだけど、以外にも日本語が喋れないの。

 一世の親が我が子を完全なアメリカ人にしようと、日本語を学ぶ機会をもたせなかったようなの。まあ殆どは簡単な会話ができる程度なんだけど、全く日本語が解らない者も少なくないし、堪能な者は数えるほどしかいないのよ。

 GHQには通訳官も語学兵も優秀な者が集められているけれど、このアーニーパイル劇場はレッドクローバーの第8軍が接収して管理するつもりでいるから心配なの。支配人のバーカー中尉以下全員が日本語を喋れないばかりでなく、芸能とは無縁の人たちだからレビューを上演できるはずがないの。駐留軍兵士の慰安のためにレビューを上演するのが任務だからと、本国から踊り子とスタッフ全員を呼んで来たら日本政府はとんでもない金額を支払わされることになってしまうわ。

 アーニーパイルはもともと宝塚歌劇の劇場なのだから、踊り子もスタッフも充分遜色ないし、あの伊藤道郎に演出と振り付けを頼めば、わざわざ本国から二流品を呼ぶ必要もないし、なにより日本人の雇用に役立つわ。

 ロバートに様子を見に行って貰おうと思っているの。支配人のバーカー中尉は日本人スタッフとの意思疎通に苦慮しているでしょうから、通訳を買って出たら快諾するでしょうし、通訳しながらさりげなく助言も出来るのでグッドアイデアだと思うのよ。

[ロバート]よい考えだと思いますが、ベティ准将はトルーパーを腰に携えていますから、どこへ行っても神通力で押し通ってしまいます。私は官給品のコルト・アーミーですから、神通力が使えないのです。ベティ准将のアーニーパイル攻略作戦は完璧ですが、短期完遂を当然とされては困ります。バーカー中尉にも面子がありますから、強く押したらかえって障害を作ってしまいます。

[ベティ]いいのよ、どうせ私はせっかちだから。ロバート貴方のやり方でやってちょうだい。兵士たちに喜んでもらえる作品を日本人によって上演して貰えるようになるなら、どんな方法をとってもよいし、どんな協力もするわ。

 春子、私たちはGHQに戻るけれど、アンコ・ケーキが手に入ったら私のオフィスに立ち寄ってよ。静岡に行った時に手に入れた日本茶があるのよ。アンコ・ケーキと緑茶とで、ずいぶん久しぶりに美味しい思いができるわ。私とロバートの分と二つ余分に買うことは出来るわよね。無理させても買ってよ。迷惑をかけないないように、和菓子屋さんには後で埋め合わせをするから、きっとよ。

[春子]大丈夫だと思うわ。沢山は無理でしょうけれど、二つぐらいで      したら問題ないと思うわ。もし駄目でもお客様用に余分に買っているから、その分を召し上がって戴くことが出来ますわ。楽しみに待っていて下さいね。

 (ベティとロバートはジープに乗って劇場前を右折して丸ノ内方向に消える。春子は婦人将校宿舎前をゆっくり歩きながら上手の銀座方向に消える)

 

 

 

二場 アーニーパイル劇場舞台事務所

 

 部屋の三方の壁に向いた事務机にへばりついて、全員が事務仕事をしているような振りをしている。部屋の中央には応接セットが置いてあり、新支配人のバーカー中尉と通訳の語学兵とが結城支配人そして脇田大道具主任が向かい合って座っている。中尉の英語は叫び声としか聞こえないし、通訳の日本語は単語が時々聞き取れる程度で意味は殆ど判らない。言いがかりを恐れて、話しかけられないよう、事務仕事に専念しているような振りをしている。

 結城支配人が日本人スタッフを代表して、定期的な調整会議を催したいと申し入れる。バーカー支配人は、占領軍が接収したのだから日本人は捕虜だと認識して欲しい。命令に従って仕事をして欲しいのであって、意見を申し立てる立場に無いことを知っていて欲しいと指示する。

 バーカー支配人は日本人が反抗した懲罰として、楽屋入口の上に祭ってある神棚の取り外しを命令する。神棚を礼拝することは日本神道の宗教行事である。日本神道は天皇を崇拝することだから、第一級の戦争犯罪を復活に導く危険な習慣であるとして禁じた。

 GHQのロバート大尉が通訳ということで調整役を買って出て、さりげなく伊藤道郎の演出と日本人ダンサーで充分満足してもらえるレビューが出来ることを教えた。そしてそれをバーカー支配人の手柄にしてあげたので、管理のための管理は激減しわずかな第8軍の管理者が形式的に存在するのみで、実質的には伊藤道郎の下に日本人による上演の道が開かれた。

 

 

 

 三場 劇場4階オフリミット・エリアGHQ民政局分室

 

 劇場4階にある映画上映用の小劇場はGHQ民政局の専用となっていて、戦時中に実施した日本研究の検証が行われていた。日本政府が提出した新憲法草案に不満なマッカーサーの 命令で、民政局のホイットニー准将が直接指揮をして新憲法作成作業に着手した。4階ロビーから図書館、レコード鑑賞室、ビリヤード・卓球台のある遊戯場までを接収し、関係者以外立ち入り禁止という厳重な管理下に置き、劇場支配人の       バーカーも立ち入れないエリアとなった。

 GHQ602号室で民政局による「憲法調査会」が極秘裏に開設された。合衆国憲法はじめ西欧先進国の憲法を精査するのが目的だが、自国の憲法を読むのも初めてという者ばかりで困難を極めた。通訳と調整係を買って出た

 ロバート大尉の進言で、帝国憲法を精査する作業は日本政府に漏洩するのを防ぐためにGHQの建物を離れてアーニーパイル4階で作業を始めた。

 GHQ民政局の総力を挙げて優秀な通訳官と語学兵を集めたが、帝国憲法は初めて見る日本語で読める者も意味が判る者も誰一人として居なかった。

 報道記者となった春子は新生日本の声を幅広く伝えたいと精力的に動き廻っていたが、駐留軍関係者の取材は手続きが繁雑で時間がかかりタイムリーに仕事を勧めるのは不可能だった。ベティ准将の計らいで劇場記者章を交付して貰ったが、アーニーパイルの記者ということで駐留軍関係施設は殆ど自由に入構することが可能となった。

 ロバート大尉はGHQ衛生局と劇場舞台事務所と劇場4階小劇場の間を駒鼠のように動き廻っていたが、ベティが共通の友人ということで次第に春子と親しくなって行った。

   

 

− 休憩 −

 

 

 

  第二幕 一場  アーニーパイル劇場舞台事務所

 

 部屋の三方の壁に向いた事務机にへばりついて、全員が事務仕事をしているような振りをしている。部屋の中央には応接セットが置いてあり、劇場顧問で演出家の伊藤道郎が仁王立ちになり熱弁を振るっている。バーカー支配人は不貞腐れ顔をしてテーブルに足を乗せている。皆は言いがかりを恐れて、話しかけられないよう、事務仕事に専念しているような振りをしている。

 春子とロバートから伊藤道郎の名前が出て、ベティが同意して推薦状がロバートによってバーカー支配人に手渡された。追って伊藤道郎がベティと共に顔を見せた。バーカーは占領軍の将校であると目一杯気負ってみせ、敗戦国の一介の舞台人ではないかと決めつけてみたが、おどおどしている自分に気づき観念した。伊藤の「やはり、兵隊の文化レベルに合わせて作品を創らなければ」との開口一番に、自分を含めてアメリカ軍人の文化的教養の低さを指摘されたような気がしたバーカーは、全てを伊藤に任せ手柄は全て自分のものにするつもりになった。

 45年12月25日に開場したアーニーパイルは、翌46年2月に第1回公演「ファンタジー・ジャポニカ」まで本国から空輸した映画とカントリーウエスタンのバンド演奏でつないだ。休暇で外出した兵士たちに好評であるかのように見えたが、3千の座席が満席となることはなかった。

 ところが初日開幕すると、3千の座席に鈴なりの兵士たちの拍手と声援そして指笛が鳴り響き、踊や歌が一つ終わる度にやんやの喝采となった。

 

 

 

  二幕 二場 帝国ホテル前の路上

 

 劇場北隣の駐車場に車を置いて、劇場地下のスナック・レッドクロスでハンバーガーを食べて遅い昼食を済ませようと正面に廻る春子と、一仕事終えて休憩するために劇場4階から降りて来たロバートが、劇場角ではち合わせしそうになる。ロバートも小腹が空いたような気分になり、地下のハンバーグではなくて帝国ホテルでの軽い昼食に春子を誘う。

 劇場からホテルまでは道路を斜めに横断すれば到着してしまうほどの距離であるが、わざと遠回りした春子は切り倒したばかりのような切り株の横に立ち、この樅の木を切らせたのは支配人のバーカー中尉であることを知っていたかとロバートに尋ねる。劇場の正面にクリスマスツリーとして立っていた時は知らなかったが、あとで日本人スタッフが大反対してバーカー中尉が権力を笠に着て強引に切らせたと聞いたとロバートは言う。立ち話で告白することではないけれどと前置きし、転属か除隊するかで帰国しようと思うから、結婚して一緒に行かないかと提案する。

 戦争が終わっても平和にはならず、朝鮮半島で戦争が勃発する恐れがあり日本にいる将兵が派遣される可能性が高い。収容所を出た家族や親戚が安住できるよう面倒を見なければならない。春子だったら内村家の嫁として誰からも歓迎されるという。

 春子は一緒に暮らせたら幸せだろうと考えていたが、しばらくは記者生活を続けたい、元麻布の実家の焼け残った部分で妹が孤児院を開いているが今後は混血孤児が増えるだろうから、日本が落ち着くまでやることはたくさんある。ロバートがアメリカ人になりたがる気持ちは解るけれど、むしろ日本人なって欲しいと訴える。あたらしく生まれ変わった日本の理想に近づく努力に力を貸して欲しいと訴える。 

 

 

 

 

二幕 三場 劇場4階オフリミット・エリアGHQ民政局分室

 

 4階ロビーから図書館、レコード鑑賞室、ビリヤード・卓球台のある遊戯場まで全てが作業場となり、GHQ民政局ケーディス大佐以下局員全員が新憲法草案の作成に総力をあげていた。

 日本政府が提出した新憲法の草案は日本語が難解で読むことも意味を理解することも出来ない。戦前から戦中を通して日本語の解読をしていた通訳官たちも初めて見る日本語でお手上げ状態となる。ロバートの提案でハーバード大学にある東洋学研究所のエドワード・メイシャワー教授に来日して貰うことにした。教授は先ごろ妻を病気で失ったばかりで、3人の子どもを連れての来日だった。教授は明治学院の牧師館で生まれ育っているので、そこの宿舎からアーニーパイルの4階へ通勤したいと希望したが、秘密兵器である教授の存在は知られてはならないという理由で春子の妹の孤児院を宿舎にして貰ったのである。孤児たちがたくさんいるので3人の子どもたちも目につかないだろうし、春子に子どもの面倒を見て貰えば安心という作戦である。

 教授の協力で草案作成作業に拍車がかかり、ケーディス大佐とホイットニー准将を大いに満足させた。

 

 

 

 二幕 四場 皇居前広場を望むお堀端を散策する春子とエドワード。

 

 新憲法草案の作成作業が終了し民政局を辞したメイシャワー教授は、ベティ准将の部屋を訪ねて帰国する旨の挨拶をした。ベティから知らされていた春子はアーニーパイルでの仕事を早くに切り上げて、一足遅れてその場に顔を見せて別れの挨拶をした。エドワードは宮城を遥拝したいからと春子を誘う。

 エドワード一家は新憲法草案を極秘裏に作成する間を春子の妹の孤児院で宿泊する予定であったが、子どもたちが他の宿舎へ移るのを嫌がったのでそのまま居通してしまった。春子が、共に過ごした日々が楽しかったと言うとエドワードは、これを縁として両家で親戚付き合いをしたいと申し出る。そして、遠く離れて暮らしていても仕事で互いに訪問仕合うことになるだろうから、充分交流できる機会はあると言う。

 春子は、平和新憲法のお陰で新しく生まれ変わった日本が、迷うこと無く安心して歩んで行けるので感謝の気持ちで一杯であると言う。軍隊を持たないで平和憲法を持ち続けるには強い意思と努力が必要だが、自由の女神が掲げる篝火のように掲げ続けるのが日本の役割であるように思うと言う。

 エドワードは春子の言葉に満足したふうに、自由と平等でアメリカン・ドリームの国にも悩みがある。人種の「るつぼ」だったら融け合けあうが、人種の「サラダボール」なので難問が山積したままである。真の自由と平等を新生日本にプレゼントしたのは、アメリカが目標を見失わないためにという意味もあると思うと言う。春子の言うように、日本の平和憲法が自由の女神が掲げる篝火のように全世界を普く照らし、アメリカ全土を照らし続けて欲しいと思っているに違いないと言う。日本と合衆国が真の自由と平等の国となり発展して行けるよう、道を見誤らぬよう見守ろうと固く握手をする。

(ベティと伊藤道郎が二人の前に現れる)

 メイシャワー教授が帰国してしまうので、是非とも伊藤先生を引き合わせたかったと言う。アーニーパイル劇場でブロードウェイに優るとも劣らないレビューを上演し続けた功績に加えて、無礼な米軍将校を叱りつけて日本人の名誉を守った武勇伝をもつ人物であると紹介する。

 伊藤先生と春子を見ると、日本の将来の不安は霧散する。日本人に負けないほど日本を愛しているエドワードを見ると、日米の将来に不安はない。

 ここにこの3人を引き合わせた信念には、神の啓示を受けたような自信がある。四半世紀も経てば立証されるでしょうから、その時にはこの予言者ベティを思い出してちょうだいねとと笑う。