「ペット」の概念 |
私は精神衛生のコンサルタントの立場から、「ピーペット( P.P.E.T. = Peop le Pets Effectiveness Training)という考え方を提唱しています。 これは単に「飼い主とペットの良好な関係の作り方」という意味ばかりではなく、「人間関係の訓練法」または「対人関係改善法」と、「ペットの効果的な訓練法」という三つの考え方を含んでいます。私は臨床心理学者ですが、比較心理学の立場から動物心理学と人間心理学の両方に興味を持っています。
そして「動物の行動」と「人間の行動」の基本的なところに違いを感じていませんから、「人間」が学校や職場や家庭という社会環境にうまく適応する必要があるのと、「ペット」が飼い主の家族という環境にうまく適応する必要があるのと、どちらも同じと考えます。 そして人間もペットも共に 「適応」がうまくいかないとノイローゼになったり、反社会的な行動に出たりして著 しく不利益を被ることにもなります。
また「ペット」という言い方は、人間側から一方通行の感じがするので、友達と か仲間という意味合いで「コンパニオン・アニマル」という言い方に変えたほうがよ いとする考え方があります。確かに、そのとうりだと思いますし、そのように言い改 めればペットたちも溜飲が下がると思います。しかし、あまりにも「ペット」という 言い方は定着していますし、「コンパニオン・アニマル」という言い方は馴染みにく い感じがします。 そこで「ペット」という言葉の概念を「被愛・愛玩」にかぎらず 、「伴侶・仲間」もとうぜん含まれているものとすればよいと思います。
現に「ぬ
いぐるみ」以外はまったくの一方通行とは思えませんし、ペットに一方通行を感じな
がら飼っている飼い主はいないと思います。
ヒトとイヌの関係の改善法 |
ペットたちは生後1年までは素直で従順です。ほとんど努力せずにペットとして扱 えます。グレート・ピレニーズやセント・バーナードのような超大型犬でさえ力は強 くても、手に負えなそうのは見かけだけで、きちんと言い聞かせれば素直に従います 。 この間に家族の一員として共存できるよう「マナー」を身につけてもらわないと、一才以降は手がつけられなくなります。訓練所へ半年以上は入れて躾け直しをしてもらわないと、一緒に暮らせなくなります。
ペットは1年過ぎるとペットではいてくれなくなり扱いが難しくなりますが、イヌの1才は人間の18才に相当するようですから妙な感心をしてしまいます。 面白いことに、人間の子どもも高校生までは子どもでいてくれますが、そこから先は一人前であることを認めてもらいたがります。思春期までは「躾け期間」ですが、この間に"躾け"終わらないと厄介なことになります。
問題の登校拒否や家庭内暴力は、この頃までに解決しておかないと、訓練所(病院や矯正施設)のお世話にならなくてはならなくなります。
ちょっとした「扱い間違い」をすると、とんでもないことになるわけですから、思春期の「子どもの心理」を知っておく必要があるのです。 どこの親も「転ばぬ先の杖」を考えてしまいますが、目一杯背伸びしてでも"一人前"と思いたい子どもにとっては極めて煩わしいことです。おでこにタンコブをこしらえても膝小僧を擦りむいても、見て見ぬふりをして一歩遅れて見守るのと"お為ごかし"を避けるのが一番の秘訣です。
ペットも人間も基本的には殆ど同じであることに気付いていただけたことと思いますが、わたしが提唱する「ピーペット」は動物行動学・動物生態学と人間行動学・人間生態学に行動心理学の視点で検討を加えたものですから、その背景には「行動理論」があり、さらには「学習理論」があります。その「学習理論」にもとづいて若干説明します。「アメとムチ」 アメ(ご褒美)は与え方によっては効果がありますが、ムチ(体罰)は飼い主とペットの関係を壊すことがあっても、望むものはなにも得られません。
もし飼い主が絶対的な支配者であることを望み、たとえ 敵意や恨みの感情をかいま見せていても、それでも隷属するペットがよいと考えるならば、すでにペットでは無くなってしまいます。 「アメの与え方」アメ(ご褒美)で釣るという考え方がありますが、アメを見せての行動変容(レスポンデント)は一時的なものです。もしアメが無ければ、または飽きたら本当に行動が変わったものでないことがすぐに分かります。
アメは変容の「強化因子」であることは確かなことですから、「釣る」という間違った考えを改め、たまたま偶然にでも自発的に好ましい行動をとったならば(オペラント)、オーバーに態度と言葉で賞賛し、飼い主の喜びがペットの喜びになるようにする際に、アメ(ご褒美)を与えるとさらに強化されます。 しかしその都度与えると(連続強化)、アメを見せて「釣る」(レスポンデント)結果と同じになってしまいます。
一定の法則性を持たせない与え方(ランダム強化)をすると、アメ(ご褒美)を与えられなくても、好ましい行動を取るようになります。 (注)オペラント、レスポンデントなどの詳しい解説は心理学辞典などをお読み下さい。
ペットの「躾け」は、生まれてから1年ぐらいの間に "獲得してしまった" 好ま しくない行動を「矯正」するといったふうのものよりも、"好ましい生活習慣"を身に つけさせるために「指導」するものと考えて欲しいと思います。 生活習慣として「 好ましい行動」をとった時には、表情、身振り、言葉など、ありとあらゆる行動で 「賞賛」を伝えます。やって当り前のことは「褒めるほどのことではない」と褒める 気にならないかもしれませんが、それでも褒めてあげることが必要なのです。
ペッ トには内心思っているだけでは、その意志は伝わりません。人間の場合も同様ですが 「意心伝心」というのは殆どの場合、そうであって欲しい願望がそう思わせるのです 。従って、言葉や身振りなどで、できるだけ多種の行動で示してあげる必要があるの です。 好ましくない行動を防止するためには、好ましい行動がとれるよう環境を整 えてあげることが必要です。好ましくない行動をとってしまいそうな時には、「抱き かかえる」ことや「閉じ込める」ことで防止することも必要です。トイレット・トレ ーニングの時にベットとトイレをフェンスで囲っておいてあげたら、とんでもないと ころに"お漏らし"してしまうのを防げます。
トイレ以外のところにお漏らししたと叱
っているよりも、はるかに効率よく明らかに効果があり、大切な関係を損ねる心配も
ありません。
好ましい行動を身につけて、それが習慣になるよう「指導」して、出来たら褒めるという習慣を面倒臭がらずに飼い主が身につけたら、「躾ける」という意識を持たずに、"躾け"られることになります。これは人間の子どもの場合も同じです。「先手必勝」というは、好ましくない行動を未然に防いで、好ましい行動へ水路けできます。「後手」は、"労多く、効少なし" で、叱ってばかりいなくてはなりません。
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