シェイクスピア ハウス プロジェクト

Shakespeare House project 

 

   

英国ストラットフォードにあるシェイクスピアの生家を
模して建てられた<シェイクスピアハウス東京>

 

 

(1)ハウス全景

     

     

 木造三階建ての母屋は、英国ストラットフォードにあるシェイクスピアの生家に模しました。手前のガレージはカントリーサイドの馬小屋に模し、その母屋側に犬小屋があります。半地下の寝室とその上をウッドデッキにして犬たちの快適空間を確保しています。通り側正面外壁には、英国の慣習にならい琺瑯製のブループラークが取り付けられています。コンサバトリ−の窓下には車椅子用のスロープがあり、敷石と煉瓦に囲まれているので、夏期はブドウらのグリーンアーチの木陰が灼熱の陽光から護ってくれています。

 理想とする家を建てたいとしても、思い通りのものを建てて貰うことは至難の業です。同じ図面を見ていても、同じ言葉で確認していても、目に見えるものが出来て行くにつれ思っているものとは異なるものになっていくのです。施工管理のシステムがあり現場監督さんの目があっても、現場の大工さんたちはベテランであればあるほど勝手に作ってしまうのです。現場監督さんより頻繁に現場へ行き、過不足ない確認と指示でより理想に近づくよう頑張りました。

 ストラットフォードにあるシェイクスピアの生家の外観を撮った写真は沢山あっても、室内を撮影した写真はネットを検索しても見当たりません。かつてシェイクスピアの生家の室内を見学したことがありますが、その時は模したものを建てようなんて思いもしませんので記憶にありません。 室内は想像して作るしかないかと思っていましたが、仮住いの借家へ引っ越しする際にかつてシェイクスピアの生家を見学して購入した写真を発見しました。                  

                    

    

    事前に遺跡調査が義務付けられる    地鎮祭は降雪で足下がぬかるんだ   

   

    傾斜地の基礎は重層で鉄筋コンなみ   ベタにヌノで中央の穴はエレベーター   

 


(2)正面玄関

    

        

 玄関の扉は四百年前からストラットフォードにあったものを取り寄せたものです。玄関ポーチと石段そして左側の車椅子用スロープはコッツウォルドのハニーストーンを敷いてあります。スロープに沿って、野鳥用の巣箱と餌台そして水浴台が並んでいます。玄関ホールの中央にはクリスマスツリーがそびえ、シンボルツリーとなっています。右側は犬小屋のウッドデッキとなっていて玄関の出入りをチェックしてます。

 写真を見て驚いたのは、厨房の暖炉で無くても暖炉がとてつもなく大きいのです。クレアの山崎さんは、シェイクスピアの生家と同じ暖炉が作れる喜びと床下のコンクリートの基礎をそれなりのものにしなければならない設計変更の大変さを考えて、複雑な心境になったと言います。我が国の暖炉は薪ストーブを煉瓦で囲ったようなものばかりですから、裸火が燃え易くて排煙能力に優れた暖炉を作れる職人さんは殆どいないようです。そんなことですから、生家と同じ暖炉を作れる職人さんを探すのが大変でした。応じて下さった職人さんは、寡黙でミステリアスな雰囲気を漂わす人でした。独学で修得したので本場へ学びに行ったことは無いというも、中世英国住宅の建築技術を学びに来ている外国人研修生たちに堪能な英語で指導しているのです。普段はなにをしている人なんだろうと気になりました。暖炉の梁は、旧宅の玄関の横にあって工事で切り倒されたケヤキの樹をチョウナで削ったものです。天井の梁は、400年前からストラットフォードにあったものをネットオークションで競り落としたものです。サイズのことはうっかりしていたのですが、偶然にも暖炉室の天井にぴったりでした。

 シェイクスピアの生家の暖炉は間口が広くて、煉瓦の壁の前で焚き火をするようなもののようなのです。輻射熱は室内全体を暖めそうですが、煙突が煙を速やかに吸い込みそうもありません。そっくり真似て煙たい部屋で我慢するというのは、あまり賢明な判断とは思えません。吸い込みのよい作りにしますと、間口が半分のサイズで充分となります。そこで薪置き場と薫製庫の設置が可能となりました。焚き火の煙は薫製庫の庫内に流入せず、煉瓦を通した熱のみが溜まるようになっています。その為に、常に庫内は乾燥を維持出来ますので、塩漬けした肉や魚が急速に乾燥し始めます。その庫内で同時にサクラかリンゴのチップで燻して薫製にします。知人が知人のリンゴ園で伐採したリンゴの木を薪にして持参して下さっているので、暖炉でリンゴの薪を燃やしますと1階ホールから3階小屋裏までがリンゴの爽やかな木の香りが漂います。

 

   

シェイクスピアの生家の暖炉       庭にあった欅で作成中の暖炉の梁

    

 暖炉本体と煙突との連結工事       煉瓦を積み その上に乗せる欅の梁  


(3)暖炉室とコンサバトリ−

   

   

 玄関ホールから3階までの階段に百年前の重厚な油彩画を展示し、画廊のような雰囲気を醸し出しています。暖炉室はシェイクスピアの生家のそれに模したので、大きな暖炉と四百年前からストラットフォードにあった天井の梁が特徴になっています。応接温室であるコンサバトリ−の程よい空間は茶室の寛ぎ感があります。

 英国から船便で送られて来たコンテナの中から搬出された玄関扉は、あまりの大きさとあまりの古さに驚きました。四百年もの間風雪に晒された為かイングリッシュオークの木肌は、ひび割れささくれ立ち灰白色に化石化したような趣きでした。この巨大な玄関扉を取り付ける為に壁を壊して収めましたので、やはりネットオークションで競り落とした郵便ポストが取り付けられなくなってしまいました。そこで別な取り付け場所を勝手口の前に作り、その郵便ポストと更に大型の郵便物が入る郵便ポストを設置しました。昔の郵便ポストは投入口が狭かったので、今日の大型化した郵便物は投入口を通らないのです。コンサバトリ−の壁に用いた煉瓦は、古いものであってもアンティークではありません。いまや英国国内にはアンティークの煉瓦は無く、古民家を購入して解体して入手するしか無いのだそうです。そこで、暖炉の灰を水に溶きワラだわしで擦ると、古色が出て趣がでるようなので、寒中ゴム手袋をして擦りました。車庫は太い栗材で建てましたが、種々の事情からクレーンは使わず昔ながらの人力で組み上げました。

                  

   

    車庫と玄関とコンサバトリ−が並ぶ     栗材の梁と柱は通常より太く重い     

   

玄関ポーチと車庫の平瓦を漆喰で固定      栗柱は太く存在感があるが重かった

 

 

(4)犬小屋/車庫/諸々

   

   

 車庫と同じ屋根の下の犬小屋を直進して、スロープを下ると勝手口に至ります。そこには、かつて英国で使われていた郵便ポストがあります。スロープの両側には植栽があり、ブドウ、つるバラ、むべ、ジュンベリー、などが植えられています。夏の炎暑を遮るグリーンには、はやと瓜を植えましたが、にが瓜も植えるつもりです。驚異の繁茂に夏期のコンサバトリ−も快適です。

 残された僅かな土地に車庫と犬小屋を作るのは至難の業です。古い家の時に比べて母屋が犬小屋にくい込んでいるので、犬小屋の寝室を半地下式にすることで解決しました。窓の位置と工夫で夏季は熱気が入らず涼風が入るよう、冬季は寒風が入らず大量の干し草で保温を確保しました。人間ばかりで無く、ワンちゃんも快適な居住空間で生活出来るよう配慮しました。           

 さらにベビーカーや車椅子の為のスロープも設置しましたので、植載のスペースが殆ど無くなりました。煉瓦と石畳ばかりの南側は夏季の炎暑を避けられません。植木鉢やプランターで、将来的にはツルバラやブドウの棚で炎暑を遮ることが可能となるでしょうが、すぐには間に合いません。ツルバラとブドウの棚では冬季に落葉するので、常緑のムベも植えて落葉と落葉の間に常緑を這わせることにしました。とはいえ棚全体につるが這って完成するのに数年はかかるでしょうから、すぐに間に合うようハヤト瓜とサツマ芋を植えました。ハヤト瓜の葉が繁茂するのは夏季の後半なので、夏季の前半に葉が繁茂するニガ瓜を植えようかと考えましたが、連作障害の出る可能性があるようなのでやめました。サツマ芋は横に伸びるつるを上に向けましたが、1mぐらいしか伸びてくれませんでした。芋畑では葉やつるが繁茂していますが、思いのほかつるは伸びないようです。      

  

   

  土の無いところに植物を育てる       天井には重厚なの梁が鎮座している 

   

ワンちゃんの寝室は半地下となる       屋根は英国製の平瓦でカラフル

 


 シェイクスピアハウスの建設には、大工さんなど多くのプロがかかわります。しかし、プロで無くても出来るところは沢山あります。プロを1人の日当でアルバイトの学生を6人雇えますので、栗材の床に亜麻仁油を塗る作業や壁に塗料を塗る作業などをお願いしました。また、窓などに架けるカーテンは手芸クラブの学生たちにお願いしました。シェイクスピアハウスは中世の田舎家ですから、豪華なものではなくそれなりの素朴さが必要だろうと考えました。玄関前や暖炉前のラグマットはジュード綱麻布ですから、カーテンもジュードがよいのではないかと思いました。コーヒー豆の袋で試作しましたら素朴過ぎるのです。いろいろ検討した結果ついに花屋さんが花束をくるむ薄手のジュードが品よく最適であるということになりました。学生の母親であるボランティアさんたちは、さすがの縫製技術で学生たちの手に終えないところは請け負って下さいました。

   

   おかあさんたちはお喋りも上手      手芸クラブの学生たちは真剣そのもの 

   

 直線のみでもジュードは縫いにくい      ミシンも手縫いもどちらも上手 

 

 また中世英国住宅の建築を海外から学びに来た研修生たちは、自分の家を自分で建てようとしたり、古い家をリフォームして住もうとしているサラリーマンや学生のようです。のべ数十人にご協力頂きましたが、みな自分の家を建てているかのような熱意をもって携わってくださいました。工具の使い方を知らないようなのでハラハラしてしまうような若者から、玄人はだしのような腕前で足場をするすると3階の屋根の高さまで登ってしまう若者までいろいろでした。国籍もいろいろで人柄もいろいろでしたが、共通したのはよくしゃべるお喋りでした。足場の上と地上との間で大声でお喋りをし、外国人観光客が東京の観光スポットの情報交換をするような内容なのです。ちょっと見では真面目なのか不真面目なのか分りませんが、ご近所のギャラリーさんたちは適格に判断してました。外国人の職人さんは職人のようには見えないと思っていたようです。

   

するすると登り下りする        高所で風を受けると恐い 

   

 漆喰は荒く塗ると味がでる        実寸図に合わせてプレカット

 


 

 シェイクスピアハウスに母と姉がやって来ました。3階小屋裏がゲストルームになる予定ですが、引っ越し荷物のダンボールが山積みになっていて泊まって貰える状況になっていません。暖炉室もコンサバトリ−も気に入ってくれたようですが、1階ホールから3階小屋裏への階段が特に気に入ったようです。1日1回でも登り下りすれば、外へ行かなくてもよい運動になると言っていました。雨風や暑さ寒さを気にせず、家の中でやれるところがよかったのでしょう。

 

    

 コンサバトリ−にて母と      ミーティングルームにて母と姉と

   

3階小屋裏のリフトと階段     1階ホールから見た小屋裏への階段

 

   

エレベーターにも古い玄関扉    母が作ったケルト模様風クッション

 

 いままでは家の内外ばかり気にしていたので、家の周囲には気がまわりませんでした。ワンちゃんとの散歩の帰りに、わが家を取り巻く環境が英国の田舎のようだとふと思いました。そう思ったらますますそう思えます。シェイクスピアハウスが出現したことで、お寺の森も道路わきの植載の緑も嬉しいことに英国のカントリーサイドっぽくなってしまいました。

 

    

 シェイクスピアハウスの出現でお寺の森も道路わきの植載の緑も英国のカントリーサイドっぽくなってしまいましたので、雪が降り積もったらますます英国のカントリーサイドっぽくなるだろうと期待していました。早朝降る雪の中でシャッターチャンスを待ち、ライトを点灯した軽トラックがその車高の高さから英国っぽく見えたので撮影しました。

    

 

 

シェイクスピアハウスのティカップ 

 

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