女の“自立”(1)

 

 

 幼稚園の先生たちの研修会に招かれて、講演を頼まれました。 始めテーマは何でもよいと言われながらも、担当の主任さんとの打ち合わせの結果、テーマは「女の“自立”」となりました。以前に看護婦さんの研修会でもテーマが「女の“自立”」だったものですから働く女性は「自立」の問題に興味があるものと思うようになりました。「自立」は他に従属せず自分の力で独立するとか、「自律」は他に制約されず自分の規範に従うなどと、それぞれに固有の意味があっても、どうやら、教職や看護婦などの職業に携わる女性たちは「自立」の意味を、可能にしたいと思っている“仕事と家庭の両立”であると考えているようです。

 究極の「自立」として、結婚は捨てて職業人として生きるという考えもあるようですが、大方は“仕事と家庭の両立”を「女の自立」問題として関心があるようです。確かに女性は希望した職業に就けても、結婚、出産、義父母などの介護などで、あっさりとその職を放棄しなくてはならないことがあります。 私が卒業論文と就職の指導をしたゼミの学生の中で、今も強い印象で記憶に残るA子さん。中学、高校と陸上に選手をしていたとのことで、堂々とした体格は見るからにたくましそうです。成績がよく行動力があり常にリーダーシップを握り、男子学生たちを引き連れ「女王」のように君臨して見えました。

 公務員試験に合格して法務省に入り、研修が終えるとすぐにアメリカへの留学を手に入れ、将来は女性局長にもなるのではないかと思いました。結婚についても、既に婚約者が用意されていると聞き、すべてに準備万端と舌を巻きました。彼は同じクラブの先輩だとのことで、コンピューター会社を1年で辞め家裁調査官の試験に挑戦しているところだと言います。家裁はどこにでもあるから転勤にあわせて転勤してくれることになっているといい、結婚してからも仕事に何ら支障無く続けられると自信ありげに言います。

 世の中には、このような女性も存在するのかと認識をあらたにさせられましたが、留学を終え帰国すると直ぐに結婚し退職したというので又もや驚かされました。そして、あの彼かと思いましたら、あの彼とは留学中に関係は終わっていて、結婚したのは別の人だといいます。そして「専業主婦」は自分の性分にあっているようで、やってみたら辞められないとうそぶきます。私は常々の心構えとして、会合などで「主婦」と名乗る女性には必ず「前歴」を確認することにしていますが、これはと思う女性はたいてい元専門職だったりします。

 「専業主婦」と聞くと、ある女性を思い出します。B子さんは自律神経失調症と心臓神経症という二つの診断を受けた後に市役所の健康課から紹介されて来談した方です。夫がタクシーの運転手をしていて、夜勤明けの日は昼過ぎまで家で寝ているのだそうです。その間は子どもが泣いても叱られるので、じっと息を凝らしていると心臓がドキドキしてきてこのまま死んでしまうのではないかと思われる恐怖感に襲われるといいます。その間に外出して息抜きでもしてきたらと常識的な意見を言うと、待ってましたといわんばかりの口調で、外出されてしまうと不便になるから外出も許してくれないのですといいます。

 はじめに総合病院の内科へ行き自律神経失調症と診断されたが、尋ねられなかったので話せなかったといい、次に神経内科のクリニックへ行き心臓神経症と診断され、意を決して話すと「心構え」を改めるようにと諭されてしまったといいます。子どもを泣かせないように物音をたてないようにとしている姿は沖縄戦の洞窟の中を連想してしまいます。 

 

 

 

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