北欧「オーランド裁定」と北方領土問題

 

 オーランド諸島はフィンランド自治領ですが、バルト海のボスニア湾の入り口に位置し、フィンランドとスウェーデンの中間にあります。住民のほとんどはスウェーデン系で、公用語はスウェーデン語です。第一次大戦末期にフィンランドがロシアからの独立気運が高まりましたが、オーランドでもフィンランドからの分離とスウェーデンへの再帰属を求める運動が起こりました。フィンランドはオーランド分離を阻止しようと、オーランドに対し広範な自治権を付与するオーランド自治法を成立させました。

 ところが、オーランドはスウェーデンに対し、島の帰属を決定する住民投票を実施できるように要請したために、フィンランドとスウェーデン両国間の緊張が高まる結果となりました。このため、スウェーデンは国際連盟にオーランド問題の裁定を託し、フィンランドもこれに同意しました。国際連盟の事務次長であった新渡戸稲造を中心とした委員会は、オーランドのフィンランドへの帰属を認め、その条件としてオーランドの更なる自治権の確約を求めたいわゆる「新渡戸裁定」が示されました。オーランド諸島はフィンランドに属しますが、公用語はスウェーデン語とし、フィンランドの軍隊の駐留は認めず自治領とする、というのがその裁定でした。日本流に言えば、まさに「大岡裁き」だったのです。これらは両国政府の具体化作業と国際連盟の承認の後、フィンランドの国内法(自治確約法)として成立し、オーランドの自治が確立しました。

 スウェーデンに郷愁を感じていた当時のオーランド島民にとってその裁定は余り評判が良く無かったようでしたが、90年近くたった現在では、スウェーデンに属さずフィンランドの自治領になったことが自分たちで自分たちことを決定することに繋がりました。 地域は大いに活性化し、欧州の中でも選りすぐりの経済的豊かさを享受する地域となっているのです。独自の法律を施行し独自の行政により、中央政府の代わりにサービスを行うことのできる権利が与えられ、特徴のある教育・文化、公共医療、地方自治、郵便、放送、商工業に関するサービスが提供されています。

 現在、フィンランド政府によってスウェーデンへの復帰が認められていますが、帰属国を問う住民投票では現状を望む人が半数を超えています。スウェーデンに復帰すれば一つの県にすぎませんが、フィンランドのもとでは大幅な住民自治を認められ、海洋地域であるオーランドにとって非常に自由が利くからだとされています。また、現在ではスウェーデンとフィンランドは、共にEU連合協定のようなシェンゲン協定加盟国であり、国境を意識せず自由に往来が可能であるという事情もあります。

 日本とロシアとの領土問題の難しさは、日本人の旧ソ連に対する恨みの感情が歴史的事実を歪めてしまっていることがあります。不可侵条約を一方的に破棄して、終戦後に参戦して侵略したことですが、旧ソ連にそうさせてしまった日本政府と陸軍に責任があったのです。ポツダムの降伏要求宣言を速やかに受諾していたならば、原爆投下やソ連参戦などで更に多くの戦死者を出さずに済んだでしょう。

 ロシアのプーチン大統領と安倍首相が極東ウラジオストクで会談し、共に経済協力を梃に北方領土問題の進展に繋げたい考えのようです。プーチン大統領は北方領土問題の解決には「痛み分け」とバルーンを打ち上げていますので、安倍首相は四島全島返還という強い姿勢で会談に臨むでしょうが、実質的なところでは「面積2等分論」で歯舞、色丹、国後の3島に加え、択捉の25%を日本に返還させ、択捉の75%をロシア側に譲渡するというところで合意が得られたならば大勝利でしょう。

 しかし交渉妥結の最大のネックが「オホーツク海」と「千島列島(クリル列島)」にありますから、ロシアの考え方次第では、「歯舞群島」のみの返還となってしまう可能性もあります。オホーツク海は戦略核ミサイルを搭載したロシアの「原子力潜水艦」が、極秘裏で自由に潜航が可能な水深がある「母海」であり、千島列島のある島と島の間にはその「原子力潜水艦」が太平洋に出入りできる充分な水深のある航路があるのです。オホーツク海は、樺太(サハリン)、千島列島(クリル列島)、カムチャツカ半島などに囲まれた海であり、北海道の北東に位置しています。カムチャツカ半島と千島列島によって太平洋と隔てられ、また、樺太・北海道によって日本海と隔てられています。原子力潜水艦がオホーツク海から日本海方面または太平洋方面へ極秘裏に航行しようとしても、自衛隊の海峡で警戒する潜水艦探知部隊に探知され監視されているのです。ロシアは核ミサイルを搭載した「原子力潜水艦」が太平洋へ極秘裏に進出できませんと、戦略上大きな支障を来すことになるのです。

 ロシアにとっては、自衛隊の潜水艦監視部隊にこれ以上近づかれたくないので、なるべくす。北海道に近い島の返還で納めたいでしょう。「歯舞群島」と 「色丹島」は北海道にへばり付いたような小さな島ですから、この2島については問題なくロシアは返還に応じるでし

ょう。しかし「 国後島」と「択捉島」の2島については主に軍事上の問題が提起される可能性があります。そこで、北欧オーランド諸島の帰属を決めた「新渡戸裁定」に似た「コンドミニウム( condominium 共同統治 )」で解決するよう勧めたいのです。

 コンドミニウム(共同統治)は、近現代史上にいくつかの例があり、成功例として代表的なものにはアンドラがあります。失敗例には樺太(サハリン)やニューヘブリディーズ諸島(バヌアツ)があります。かつてのアンドラのように、日露両国に択捉と国後の両島への潜在主権を認めながらも、住民に広い自治権を与えることで自治地域とすることが考えられます。もし日露両政府が島の施政権を直に行使すれば、日露の公権力の混在からかつての樺太雑居地(1867-1875)のような混乱を招く可能性があります。両島の住民に自治権を認めて、両政府が施政権を任せることで、そうした混乱を防ぐことが出来ます。沖縄返還の時に佐藤首相が裏取引していたことが後に明らかになりましたが、好機到来の領土問題ですから、安倍首相は奇策を用いてでも交渉を成立させようと頑張るでしょう。

 ロシア軍と自衛隊の駐留は認めず自治領とし、自治政府は独自の特徴のある教育や文化、公共医療、地方自治、郵便、放送、商工業に関するサービスなどが提供できるようにし、公用語は日本語とロシア語そして英語とします。

 コンドミニウム(共同統治)の日本側にとってのメリットとしては、難解な択捉と国後の領有問題をこの解決方法で決着し、日本の漁民が両島の周辺で漁業を営めるようになることや、ロシア政府にも行政コストの負担を求められることなどがあります。そして、ロシア側にとってのメリットは、日本から官民を問わず投資や援助が期待でき、また、この地域における貿易の拡大も望めることです。そして国後と択捉の共同統治領の経済成長がその他の極東ロシアにも波及し、両国政府と共同統治領に暮らす日本人とロシア人にも、この決定で良かったと思えることになるでしょう。

 樺太(サハリン)のように天然ガスなど「地下資源」の埋蔵が考えられますが、共に「漁業資源」の開発で経済成長が望めるでしょう。温室や野菜工場から新鮮野菜を生産して「極寒地農業」を成立させて、輸入に頼らなくても快適な生活が得られるでしょう。日本からもロシアからも定住者が増え、多くの人たちが仕事に就けて豊かな暮らしが得られる「自治領」として成立して欲しいものです。

 

 

 

 

 

  

 

oak-wood@lovelylab.net

http://www.lovelylab.net

 


もどる