男はつらいよ

 

 ニンゲンが動物だったころオンナたちは軽いお産をして、生まれたばかりの赤ちゃんも母親に負担をかけませんでした。その頃の妊娠と出産そして育児が、オンナたちの日常生活にとって、さしたる影響を与えるものではありませんでした。チンパンジーが赤ちゃんを産む様子を想像し、生まれた赤ちゃんがしっかりと母親の懐にしがみついている様子を想像して見れば、ご理解して戴けるものと思います。

 ところが、チンパンジーなど霊長類たちより更に進化したニンゲンは、直立歩行が当然となって手を歩行の補助にも使わなくなりました。そして、自由になった手は道具の使用から高度な文化と文明を創り出しました。さらには、その間に膨大な情報処理に追われた頭脳は巨大になり、不自然なほど発達してしまいました。

 頭脳が肥大化したことは、軽かったお産に影響を与えました。骨盤を拡げても回転して出てくる工夫をしても、早産するしか産道をくぐり出る方法が無くなってしまいました。他の動物たちに比べて、未熟児で産まれて来るという工夫でそれを解決したのです。未熟児で産まれて来るので生まれて1年ほどは、胎児なみの快適環境にしてあげなければならないのです。これは母親であるオンナたちの日常生活に、大きな影響を及ぼしました。育児に手がかかり過ぎて、日常生活に支障が出てしまったのです。

 ご存じのように、チンパンジーのお母さんは妊娠中でも育児中でも山野を駆け巡り、必要な餌は普段と変わらず手に入れています。ところがニンゲンのお母さんは妊娠中はまだしも育児中は自力で必要な食料を確保出来なくなってしまいました。

 狩猟から牧畜へ採取から農耕へとニンゲンの歴史は移り、豊かになったオトコは財産を自分の子どもに残したいと考えるようになりました。育児で不自由になったオンナは生活を保証してくれるオトコの子どもを産もうと考えるようになりました。オトコもオンナも共に"良い子"に行く末を託したいと思い、"良い伴侶"と巡り会いたいと考えました。今はよい出会いがあり、よい子どもに恵まれ、誰もが幸せになることが出来るよい時代になっています。ところが、遠い昔の記憶を遺伝子が受け継ぎそのつもりで結婚して、妻も夫も互いに相手に抱いていたものが幻想であることに気付き、なんとか3年ほど経って離婚に至る危機を乗り切ってからは、お父さんとしてお母さんとして安定した夫婦を30年以上続けることになります。

 私たちは遺伝子情報に操られているのか、社会慣習に条件付けられているのか、なにかに支配されているかのように、判で押したように結婚をし家庭を持ちます。遠い昔にオトコとオンナがした暗黙の契約が今の時代にも生きているかのように、夫はせっせと会社に通い給料を運んでいます。妻も家事と育児に頑張りますが、ここに決定的な違いがあります。夫は仕事で社会と関わりますが、妻は家事と育児では社会と関わりません。夫にはマイペースは許されず、妻はマイペースにやれるとことなのです。建て前に対する本音のところですが、妻はいくらでも"適当"にやることが出来るのです。なんとなく契約違反を感じても、夫には"適当"にやることが許されないのです。ただ「男は辛いよ」とぼやくしかないのです。

 

 

 

oak-wood@lovelab.org

http://www.lovelab.org

 


もどる