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「子育て」や「子どもの教育」に興味のある方たちでしたら「親業」と「親業訓練」に就いては既にご存じのことと思いますし、さほど関心を持たない方たちでもTVや新聞・雑誌などで幾度か見聞きしたことを記憶に残しているのではないかと思います。しかし、全くご存じ無かった方たちのために少々説明をいたしますと、まず「親業」と書いて「おやぎょう」と読みます。「親という職業」の意味であってしかも「訓練」となると、それだけでギョッとしたくなる方もいらっしゃるかも知れませんが、しばらくは我慢してお聞きいただきたいと思います。
アメリカの心理学者トマス・ゴードン博士が十数年前から始めたPET・Parent Effectiveness Training(親としての役割を効果的に果たす為の訓練)を日本語に置き換える際に「親業訓練」という言葉を当てはめたようです。この訳語はとてもピッタリしていて、他にこれに代わる言葉は見当たらないように思いますが、しかし感情的には「親は職業なのか」と引っ掛かり反発したくなる人たちの気持ちを解らなくはありません。
「訓練を受けなければ親になれないのか」と“今どきの若い親”を嘆く半可通の若い親の親は別として、アメリカの合理主義に迎え撃つ大和魂のような様相を感じ、日本人固有の感情が逆撫でされたことによって噴出したように思えました。PET.が日本にもたらされた80年頃は世論が二分されてしまったようで、しかも7:3ぐらいの二分で、PET.は素晴らしいとか、学問的にも充分納得できる等というと村八分にされかねない雰囲気でした。
地球はまわっていると言って宗教裁判にかけられてしまうような、そんな雰囲気すらあったのです。私の考えは、「親業」の部分に同意できて「訓練」の部分に同意しかねるわけですから、それぞれについて、だからこそ、自分の意見を言いたくなるのです。
T.ゴードンはPET.のほかに、TET.Teacher Effectiveness Training (教師として・・・・・)、LET.Leader・・・(指導者として・・・)、YET.Youth ・・・(青少年のための・・・)など、幾つかの「訓練プログラム」を開発していてETI. Effectiveness Training Institute (効果訓練協会)を設立しております。
T.ゴードンが提唱した「効果訓練法」は、当然のことながら親子関係に限ったものではなく、様々な人間関係に応用できるものですから、親 Parent のPというよりも人間 People のPと考えた方がよいようにも思うわけです。といったことからも、もしP.E.T. People Effectiveness Training(人間関係訓練法または対人関係改善法)という言い方で日本へ入ってきたならば、これほどの誤解は受けなかったように思います。PET.の素晴らしいところは、親から子どもによく言われることの多い「御為転(おためごし)」を否定して、また子どもたちからそのような誤解をされてしまう言い方や態度をどのように改めたらよいかを気付かせてくれます。
また判りやすく具体例をあげて説明し、「子どもの為を思って」という言い方をしなくても、充分親の気持ちが伝わるように教えてくれます。
日本の親は、子どもの為には「我慢して当然」と考えているようですから、「私は」といって自分の気持ちを子どもの前に出すことはなかなか出来ないようです。しかし、ここではいかに「私はこう思う」とか「私はこう感じている」ということを子どもに伝えることが良い親子の関係を作っていく上に大切であるかが書かれております。
最後に「親業訓練」を受けてはいけないとまで言うつもりはありませんが、受けようとする親たちは「即効」を期待するあまりに稽古不足で、大根役者の棒台詞になってしまい、努力の割には効果につながりません。
また、そうされた子どもたちは「親の態度がおかしい」「変なことを言う」等といって気持ち悪がったりします。私は、訓練まで受ける必要はないと思います。心掛けるだけで充分だと思います。P.E.T.そのものは心理療法とカウンセリングを理解するによい参考書であるとも考えておりますので、一読をお勧めします。
ゴードン著 近藤訳 「親業」 サイマル出版会 1980
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