地域社会の“ペンション”化

         

 先月始めに米国内を小旅行しました。湾岸戦争が始まる直前でしたので、あたかも戦時下であるような様相でした。旅客機も中東へ徴用されていて便数は減らされているうえに爆弾テロ騒ぎで突然欠航になったりで、避難民の心境をちょっぴり味わい国際情勢を肌で感じさせられてしまいました。訪れた都市はアメリカ南部フロリダ半島の付け根に位置する「オーランド」と先端やや右に位置する「マイアミ」で、主目的は観光ですが同時に全米の年金生活者(ペンショナー)が集中し人口が急増し続ける「サン・ベルト」地帯の一部を見て廻りました。

 日本のTVや新聞に紹介されているものとしては、「シルバー・コロンビア計画」で有名になったスペインのコスタ・デル・ソルやオーストラリアのマンリー・ビーチのように避寒を目的としてコンドミニアムやモーテル(日本でいうマンスリー・マンション)またはムービング・ホーム(キャンピング・カー)に長期滞在し散歩とか日光浴をしながらお喋りを楽しんでいるといったものですが、時たまの紹介ではペンショナー(年金生活者)たちが自治組織をつくって地域社会を管理し維持している例もあるようです。

 「マイアミ」は前者のようで日本の「熱海」と同様なありさまで、かつてミス・ユニバースのコンテスト会場として有名だったホテルがホテルとは名ばかりで老人専用の保養施設のようになっていて、古びた建物をカラフルにペイント塗りたくり「老嬢の厚化粧」のようで、時の流れの無情さを感じました。「オーランド」は後者で、かつて大陸を東から西へ多くの人々が移住しロサンゼルスが造られているときもこんなではなかったかと思えるほどよく似ていて、郊外に続々とコンドミニアムやモーテル(上述)が建てられており、活気を感じました。

 しかし町中を歩く人もお店で働く人も老人ばかりで、若い人をあまり見かけませんでした。日本の「原宿」竹下通りでレストランやブティックの店員さんがかなり年輩の女性、ジェシカおばさんがウエイトレスをしていたりブッシュ大統領がバスの運転手をしている、そんな感じなのです。若い人達も居ないわけではありませんがディズニー・ワールドやユニバーサル・スタジオの関連企業へ働きにいってしまっていいるのだそうです。

 「オーランド」の町は自然発生的に老人が町を維持し管理しているように思えます。行政が意図的に指導しているようでもありません。しかも老人たち自信は自分達が住む町を自分達で管理して維持しているという意識はないようです。しかし、老人社会のあるべき姿を模索している者としてよく考えてみると、画期的な社会構造を意識せずに彼らは営んでいるように思えます。遊びにくる若い人たちを「泊めて」「食べさせて」「くつろがせ」と、させてあげるお世話をしている様子を見ると、町全体が途轍もなくどでかい「ペンション(西洋民宿)」であるかのように思えます。

 日本では「ペンション」といえば若い人が脱サラをしてやるもののように思われておりますが、本来欧米では定年退職者が退職金を基にしてリゾート地に民宿を開いたものをいうようです。すなわち、ペンショナーがやるからペンションと呼ぶようです。若い夫婦が孫のような子どもを連れて、お爺ちゃんのお婆ちゃんのような人たちが住むリゾート地へレジャーと保養のために毎年毎年やって来て、時には孫のような子どもをお爺ちゃんお婆ちゃんのような人たちに預けて、若い夫婦が身軽になって思う存分楽しむ構図なんて素晴らしいことではありませんか。 

 

 

 

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