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このところ驚かされる事件が多発しています。青少年の殺人事件を統計数字から言えば、先進国の中で極めて少なく、一貫して減少し続けていることも事実のようです。驚かされる事件が多発しているように感じるのは、滅多に起らないような事件が起ったということなのでしょう。俄には信じられないでしょうが、青少年の殺人事件が極めて少ないのは、思春期のエネルギーが受験戦争に向けられているからなのだそうです。
不登校から殆ど閉じ篭りの侭になりますと、社会性を身に付ける機会が持てないばかりでなく、自己中心思考に埋没して行くことに歯止めとなるものがありません。子どもが学校へ行けなくなった時に、行くのが当然で行けないことを想定していなかった親は困惑するしかありません。
自信を持てない親の家庭内での対応は後手後手となり、屈折した依存感情をエスカレートさせてしまいます。躾が充分でない愛犬が家庭内で一番権力を持ってしまい、飼い主を隷属させ手足のように酷使する「アルファーシンドローム・権勢症候群」と呼ばれる現象に、よく似た関係が人間の親子の間にも生じてしまいます。
ただ可愛いからと飼ってしまい傷だらけになって後悔している飼い主のように、多くの親たちが困り果てたままで幾年もその状況を過ごしています。愛犬だったら訓練所があり訓練士さんから矯正指導が受けられます。ところが多くの親たちが、人間であるが故に、孤立無援のまま追い詰めらる一方、子どもたちは紙袋を被った子猫のようにあがき騒いで暴れ廻っています。
テレビのニュース番組で、ある大学教授が得意満面でインタビューに応えていました。その教授は数少ない思春期専門の精神科医で、地方で事件を起こした少年の親が精神病院への入院を拒絶されて困っているとの相談を受け、電話でその精神病院に入院出来るよう強く要請して目的を達し親から感謝された"美談報道"でした。ところでご存じのように、強引に入院させて直ぐに外泊させられてしまい、あの事件になってしまいました。この教授が精神保健の専門家でなかったら仕方ないかも知れません。困り果てて入院させるのでしょうが、入院させたからには治療が始まらなければなりません。そして、少年が入院させてもらい良かったととの感想を持って退院するのでなければ、かえって状況がこじれて大変な事態になります。
精神科の入院基準は「自傷他害」と呼ばれています。自分自身を傷つけたり周囲に危害を加える恐れがある場合に要入院と判断され、かつて社会は「隔離」と「保護」を病院に求めました。そして今は、さらに「治療」を求めています。しかし、多くの病院は手のかかる患者は入院させたがらないのです。是非と入院させても、すぐに退院させてしまいます。入院させるばかりでなく、治療までしてくれる病院を捜すのは大変なことなのです。
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