若い女性が失踪し容疑者のアパートから９人分の遺体が発見された事件では、「死ぬしか無いのに、自分で死ぬ勇気がない」と告白する " 通り魔殺人 " など 無差別殺人事件の実行犯によく似た犯人像が浮かびます。障害者施設襲撃事件の犯人の本音のところは、やはり「死ぬしか無いのに、自分で死ぬ勇気がない」からだったでしょう。かつての「新宿バス放火事件」の決行動機は、「不幸なのは自分だけで、世の中の人たちは誰もが幸せに見えた」と云うことだったようです。

　短期間に９人も殺したのは驚きですが、「自殺サイト」やツイッターの呟きから " 獲物 " を誘引する手口は、当たり前すぎて思いつかないほど今日的な考えのように思います。「自殺サイト」の掲示板に一緒に死ぬ旨をツイートし、それに応じた複数人の自殺事件が続いて起こりました。「自殺サイト」の掲示板への監視が厳しくなったために、サイト利用者はツイッターの「掲示板機能」を利用するようになったようです。

　白石容疑者は風俗で働く女性を捜すのにツイッターを利用していたようですが、死にたいと呟く若い女性を風俗にスカウトし易いことに気づいたのでしょう。白石容疑者は似た境遇にいて助けて欲しい気持ちを持ち続けていたので、相手の気持ちが手に取るように分かり、勧誘し易かったに違いありません。死にたいと訴える人たちは、死にたいのではなくて助けて欲しいのです。ワラをも掴む思いでも泥沼から救い出してくれるクモの糸であって欲しいのです。それが叶えられないのであれば、一緒に死んでくれる人がいて欲しいと願うのです。誰にも知られずに死んでしまうのは余りにも寂しいので、遺書を書いたり自殺を仄めかす電話をかけたりメールを出したりするのでしょう。

　「自殺サイト」やツイッターの呟きから " 獲物 " を誘引する手口は、自ら「死ぬしか無いのに、自分で死ぬ勇気が無い」感じていたからで、 " 風俗スカウト " で有罪判決を受けてからは「生きている意味が分からなくなった」と父親に告白したようです。学校の成績も部活も芳しく無くアルバイトや職を転々とし、ひたすら " 根気 " と " 優しさ "で頑張れる 唯一適職のように見えた「スカウトマン」も、それなりに伴う困難さと社会性が必要でした。違法にならないギリギリのところで若い女性を「食い物」にする仕事ですから、表面的には " 優しさ " と " 根気 "で勝負するように見えたのでしょうが、その裏には相当の狡猾さが必要であったことが白石容疑者には気づけなかったのでしょう。

　母親と妹が別居してしまい父親のみが残った実家に戻り、万策尽きて挫折して死ぬしか無いのかと父親に訴えたのでしょう。こんな人間に育ててしまったのは親のせいであると責め立てたかも知れません。世渡りが下手で不憫な我が子に親として責任を感じ、あるいは責任を感じるそれなりの理由があったのかも知れませんが、連続殺人事件現場となったアパートを借りてあげたのでしょう。一緒に暮らせないと父親が思っていたことは間違いないと思います。

　ツイッターの自殺願望掲示板に呟く若い女性の殆どは、死にたくなるほど孤独でいることに気付いて欲しいと訴えるのですが、同じ考えを持つと共感して呼び寄せれば疑わずに何処へでもやって来ると白石容疑者は自信を持っていたのでしょう。　家出をしてネットカフェ暮らしをするほど所持金が無くても、泊まらせてくれて食べさせてくれる願ったり叶ったりの、常識に捕われない「神対応」に渡りに船と無防備に応じてしまうのでしょう。殺してくれる人で無くても相手にしてくれる人であれば「救いの神」であると思えてしまいます。ツイッターに「死にたい」と呟いても、本気で「一緒に死のう」と応じる人は居ないと思っているので、まさか本当に殺されるとは夢にも思わなかったでしょう。

　白石容疑者はツイッターで " 獲物 " を呼び寄せて、殺害して金品を奪いながら何処までこの生活が続けられるか漠然と思っていたでしょう。殺害してみて被害者の所持金が少なかったのは想定外だったかも知れません。しかし経済的破綻と云う番狂わせでこの生活が続けられず、警察に自首し裁判で死刑にして貰うのはそれほど先のことでは無いと思ったでしょう。アパートの自室内に処分し切れない遺体が増え過ぎて、寝場所も無いほど増え続けるとも思ってはいなかったでしょうが、警察の捜査の手が伸びて逮捕されてしまうとは思っていなかったでしょう。