シェイクスピア ハウス プロジェクトが完了しました。

 

シェイクスピア ハウス プロジェクト

プロジェクト サポーター

高橋和彦(トラッドUK/英国住宅&インテリア)

山崎宏文(クレア/ホーム&ガーデン)

三枝 優(レスト/カントリーデザイン)

小倉誉喜(小倉工務店木造部)

岩佐優一(矢澤材木店社長室)

中嶋柏樹・早苗(太郎華家族後見人)




英国ストラットフォードにあるシェイクスピアの生家

 

潮流閑話 自宅の建替えで新しい人生が [ 05.12.02 ]

 

 家族が減って夫婦二人の家に造り直すのですから、充分な広さのゲストルームを確保できます。病院に入院している子どもさんには家族が付添わねばならないことが多いので、その家族の宿泊に提供しようと思いついたのです。宿屋の親父になれば退屈しませんし、多くの人たちとの出合いは楽しみです。
 しかも多くの人たちに喜ばれるのですから、物臭にもやれるボランティアだろうと思いました。

 

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はじめに 

 ことの始まりは、小倉誉喜氏の耐震検査の勧めでした。かつての阪神大震災の時に行政の対応を目の当たりにして、ワンちゃんたちのためにポリタンクをたくさん買い込むなどの自衛策をとりました。それから新潟大震災の後には耐震工事が必要であると現実味を持って感じました。耐震検査を受けた結果から、やはり工事をすることになりましたので、ついでに老後を見据えてのバリアフリーのリフォームもお願いしました。

 そこまでやるなら建て替えた方がよいと小倉氏から提案があり、引っ越しと家屋の解体からワンちゃんたちの仮住まいまで、きめ細かく面倒をみて下さるとのことで実現可能となりました。小倉工務店は鉄筋コンクリート建築と地下室が得意とのことで、その流れに乗って構想をまとめ平面図まで出来上がりました。

 家を建て替えようなんてことはもとより、建築なんてものにはまったく興味はありませんでしたが、この頃になると住宅に興味が湧くようになっていました。家の周りでも、道路を走っていても、今まで気づかなかった家がやたらと気になるようになりました。

 新築の家が目につき、よく見ると豪華な家もあります。しかし品のよい個性を感じさせる家は見当たりません。わが家は「ワンちゃんが沢山いる家」であるとか、「ツタが一杯からまっている家」という言い方で、初めて訪ねて来た人にも説明し易い造りです。ところが建て替える家は個性に欠け、初めて訪ねて来る人に説明し難い造りであることに気づきました。

 建て売りのような豪華さを自慢する趣味はありませんし、注文住宅なのに個性を感じさせない造りの家でも困ります。自信満々の建築士さんは提案の一つでしかないと言いながら、ちょっとでも気を抜くとその提案を押しつけて来ます。うかうかしていると、そのまま着工になってしまう勢いに押し流されてしまいます。

 ”お見合い”のような集団圧力に戸惑い、経費対成果はと悩み、原点に戻ってリフォームでもと考え、柄に合わない地下室のある鉄筋コンクリート建築よりも、自分らしさを加味したリフォーム住宅でも良いのではないかと思うようになりました。

 わが家の前に立ち、じーっとわが家を眺めました。道路に面した古い木造二階建ての家ということでイメージを巡らせましたら、そうです、そうして英国ストラットフォードにある「シェイクスピアの生家」にたどり着いたのです。 そう、屋根にドーマ(小窓)を付けて、暖炉の煙突を付けたら、このままでもシェイクスピアハウスになる。頭の上にパッとクリアライトの電球が輝きました。

 

 英国熟知のお二人との出会い。

 多摩都市モノレール甲州街道駅とスポーツ公園の中間辺りの街道沿いに、忽然と”中世英国田舎家”出現します。しかも垂涎のローズガーデンと木立と鱒池さらに雰囲気のある畑まであります。オーナーの山崎さんが、イギリスから建材など全てを輸入してご自分で建ててしまったようです。クレア/ホーム&ガーデン(http://www.ruralcottage.net/)は山崎さんご夫妻の思想が具現されたようで、徹底して「全てが本物」という姿勢には畏敬の念すら感じます。

 わが家の改造「シェイクスピア」計画に意見を求めますと「中途半端な造りにして完成たら、簡単には造り替えられませんからネ」といいます。ところが、建て主は常に予算が念頭にあり、大して変わらなければ低予算でと考えてしまいます。しかし、「いま気にならなくても段々気になってくるんですよ」と止めの一言で、ついに素直に師事するしかないと思いしました。あの”中世英国田舎家”を自力で建てた山崎さんの一言ですから、まさに金鉄の如しで抵抗のしようがありません。

 その山崎さんが、トラッドUK(http://www.traduk.tv/index.html)の高橋さんをこのプロジェクトに最適任であろうと紹介して下さいました。「希望した予算の範囲内で、希望通りの英国住宅となるよう最大限の努力をして下さる」プロなのだそうです。必要な建材などはイギリスから輸入しますが、屋根瓦やレンガに希望するものが無いと、色や形を注文して焼いて貰うのだそうです。吊るし既製服の価格でプレタポルテの既製服を作って貰っても感動ですが、全てを吟味したオートクチュールの注文服を文字通り一つ一つ手作りして下さるような家造りなんだそうです。

 こうしてプロジェクトメンバーが出揃い、週2回のミーティングを持つようになりました。それぞれウンチクの固まりが服を着ているような人たちですから、喋り出したら止まりませんので、夕刻に始めても飲まず喰わずで深夜に及ぶこともあります。それが決して無駄話をしているのでは無くポコポコとアイデアが涌き出て来るのです。かつて雑誌やネットサーフで見たことがあるなどと、記憶が戻ってくるのです。 

 

 厳しい現実を秘策で切り開く

 わが家の周囲は「防火地域」なんだそうです。そして防火地域は、鉄筋か鉄骨の「防火建築」しか建てられないのだそうです。いつの間にそんなことにと驚きましたが、さすが我がプロジェクトは転んでもただ起きませんでした。一定の基準を満たせば「准防火建築」ということで、30坪以下であれば「木造建築」が可能であるとのことでした。木造が不可であれば仕方ありませんが、木造以外では建築費がかさみますし住み心地に差がでるでしょう。

 外観をシェイクスピアハウスにするためには、ある程度の「容積や風体」が必要です。単に30坪以下の木造2階建てでは、頭に”ミニ”とつけなければなりません。柱と梁が乗る鉄筋コンクリートの基礎を1メートルぐらい高くすれば、建物が大きく見えるなどの奇策も検討しましたが、文殊の知恵を絞った結果に「吹き抜け」を多用すれば30坪以下に抑えられるという考えにたどり着きました。

 お寺や神社などにも鉄筋コンクリート建築が目立つ昨今ですが、より本物を目指すシェイクスピアハウスとしては英国産オーク材で建てる必要があるのです。シェイクスピアの研究者やイギリス建築史の研究者の眼に晒しても、充分耐えうる造りであって欲しいのです。分かる人にしか分からないようなことですが、こだわりは自己満足なんでしょう。

 生活の場であり仕事の場である自宅空間を使い勝手のよいものとするために、全てを1階に配置して”ワンルームマンション”のような動線で生活できるよう、それを基本コンセプトとしました。玄関へは石段とスロープ、三和土とホールのフローリングには段差なし、室内は全て引き戸であって、階上へは階段とエレベーターにしました。苦闘の結果ようやく「平面図」が完成し、次いでシェ・ハウスたる所以の「立面図」が完成しました。

 シェークスピアハウスの建築様式は「チュダ−様式」です。チュダ−の目立つ特徴の1つに外壁に露出した梁と柱(真壁)ですが、准防火建築としてはコンクリートモルタルで全て覆い隠した壁(大壁)にしなければならないのです。オーク丸太の中心を外して割り取った柱、ノコギリで切るのではなくオノで割りチョウナで削った面が美しく趣のある柱を、わざわざ覆い隠すなんて理解を超えてしまいます。コンクリートモルタルで壁を全て覆い隠さなければならないなら、英国コッツウォルド地方に産出するハニーストーンを貼ろうかというアイデアなどが百出しましたが、初心忘るベからずで、大壁にオノで割ってチョウナで削った面が正面となるように切り取ったオーク板を壁に貼るという「貼り柱」構想が打ち出されました。

 オーク板を壁に貼るという「貼り柱」構想は、長年の陽光風雪に晒されると歪んで板であることが分ってしまうと難色を示す意見もありました。しかし貼り柱も可燃物であることから認可されるかという心配が優先されました。家の近所に板や柱などの木製品が外壁に取り付けられている建物があるか調べ、居酒屋やお寿司屋さんの看板が木製であることが確認できました。これに励まされて勇気百倍となり、貼り柱のみならず「玄関扉」も「窓枠」も木製で行けると自信を深めました。

★ ページは更新されていませんが、プロジェクトは進行しています。mf-_-;m

 おおよそ年内に引っ越しと解体を完了させ、正月半ば過ぎに着工という予定になっています。外部立面図と暖炉煙突の図面はクレアのページをご覧下さい。 

 プロジェクトの趣旨に賛同する工務店や建築会社は沢山ありますが、見積りは予算額より1千万円前後も高くとても折り合いが着きません。矢澤材木店は立川の日野橋交差点の近くにあり、多摩川を挟んでクレアと向かい合っています。府中とも甲州街道一本で結ばれ至近の距離にあります。社長室の岩佐優一氏はロンドンでホテル経営に携わった経験があるとのことで、プロジェクトに理解を示して下さり驚きの低予算であることを了承して下さいました。

 

 仮住まい探し

 ワンちゃんたちの仮住まいは、小倉工務店の庭にプレハブ小屋を建てることになっていましたが、その近くにアパートやマンスリーマンションがありません。知人の紹介で面倒見がよいという不動産屋さんにお願いしましたら、多摩川寄りの梨畑に囲まれた戸建てを斡旋してくださいました。確かに小さなワンちゃんと一緒に暮らせる家をといってもそうは無いでしょうから、大きなワンちゃんと一緒に暮らせる家といったら奇跡ものでしょう。家が2軒ぐらい建てられそうな庭があり、小倉工務店の庭に建てて貰うことにしていたプレハブ小屋をそこに建てることにしました。そして来訪者のために、分倍河原と中河原そして府中本町の3駅からタクシーで送迎して貰えるようにしようと考えました。

 ところが、分倍河原の駅からも自宅からも数分のところにある戸建が突然借りられることになりました。旧甲州街道沿いで、昭和の初めに建てられたらしい古い木造平屋ですが、大きな部屋が幾つも連なっている大きな家なのです。14畳の大部屋はそのまま引っ越し荷物の倉庫にできます。玄関から面接室、事務室、リビングダイニング、ベッドルームと連室で確保できました。さらに庭も広く高い塀に囲まれているので、玄関横にネットフェンスの出入り口を作っただけで広い犬小屋が確保できました。

 

 旧家屋の解体工事

 旧家屋の解体は2週間ほどかかるとのことでした。重機で壊して解体処理場へ運んでしまえば数日で更地にできますが、処理場が分別処理しなければならないので、処理費がその分高額になるのだそうです。手壊しで分別しながら解体すれば、日数はかかっても費用は割安になると勧めて下さったのです。通常の木造家屋の解体期間は1週間ほどですが、木造と鉄骨造りだったため解体期間が長くなるとのことでした。

 府中市旧市内全域は、条例で建替え時の更地段階に遺跡発掘調査が義務づけられています。分倍河原駅の周辺は高台であるために弥生式土器が出土し住居跡が発掘されています。しかし、わが家のある多摩川の河岸段丘は分倍河原古戦場ですから、鎌倉時代の遺物が出土する可能性があります。すぐ近くの高安寺は空堀に囲まれた高台にあり、鎌倉幕府の出城でもあったようです。新田義貞軍は埼玉県の所沢に布陣して動かず、鎌倉軍が多摩川を渡るのを待って襲撃し大勝利した古戦場です。馬の骨ぐらいしか出ないだろうという意見もあります。 

 

 ついに着工となる

 当初の完成予定の3月に、ようやく着工となりました。次々に生じる難題を解決するために、遅れに遅れてついに見切り発車としました。頓挫してプロジェクトが解体してしまわないよう、理想の中の理想と現実を融合させる決断を心掛けました。
 シェイクスピアの生家を建てるという計画は、ある意味において新宿のグローブ座よりもずーっと滅多にありえない出来事なのです。可能な限り本物に近づけるのもコンセプトの一つなので、なるべくその時代に近いオークの古材やアンテーク玄関ドアなどをイギリスのネットオークションで競り落としました。貴重な古釘を丁寧に抜き、古い塗料を剥がして新しい塗料を塗るなど、プロにはお願い出来ない地道な根気仕事を学生アルバイトくんに頑張って貰っています。
 本物の英国住宅を建てたいプロたちが集まって、あたかも自社のモデルハウスを建てようとしているかのような凝りようです。予算の範囲内であればいくら凝ってくれても良いと言い放ち、完成後は随時オープンハウスを開催するからとその意欲に応えるようにしています。

 防火地域は木造家屋の木部をモルタルや不燃材で被わなければなりません。シェークスピアハウスにするためには、木部をモルタルなどで被った上に柱を立て梁を渡し漆喰を塗ります。そのことから、まず木造モルタル住宅を工務店さんに建てて貰い、その後にプロジェクトメンバーが各自の特技でシェークスピアハウス作りをします。
 そして、その木造モルタル住宅を工務店さんに建てて貰う契約をした時点から、想像しなかったやっかいな事態が始まりました。

 下請け工務店さんに木造モルタル住宅を建てて貰うのですが、その仕様書を見ますとその建材で建てられては困るようなものが多く含まれていました。好ましい建材に変更をお願いしますと、すんなり応じてくれますが驚くほど高額な差額を要求されてしまいました。しかも仕様書には、お願いしていない犬小屋やガレージも建てて貰えることになっています。これを喜んでいられないのは、同じような理由で仕様変更をお願いしますと、またも高額な差額を要求されてしまうことになります。さらに驚くのは、契約しているのでキャンセル出来ないということでした。いつの間にか流れの方向が変わり始め、チープなシェイクスピアハウスになってしまう恐怖を感じました。

 昨年の暮から3ヶ月の間はこの軌道修正のためのジャムセッションを重ね、地鎮祭と埋蔵遺跡検査を終え、着工当日の交渉でようやく納得できる妥結を得ました。 

 

 



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